From the Garage #06 電源タップで音は変わる? ― MONSTER POWERから考える電源の話 ―
From the Garage #06
電源タップで音は変わる? ― MONSTER POWERから考える電源の話 ―
From the Garage -ガレージから始まる、私たちの話-
K-Garage PRO DIVISIONのメンバーが、製品への想い、業界への視点、事業部の日常を自分たちの言葉で綴るシリーズです。スペック表には載らない、人間くさい話をここから届けます。

1. 「アクセサリー」ではなく、「必要なもの」
MONSTERには、ブランドを象徴するひとつの考え方があります。
“Not Accessories, Necessaries.”
アクセサリーではなく、必要なもの。
MONSTERといえば、ケーブルを思い浮かべる人も多いでしょう。
ケーブルは一般的には「アクセサリー」と呼ばれるものです。
でも、ケーブルがなければ機材同士をつなぐことはできません。
そして、電源がなければ機材は動きません。
つまり、どちらも音楽や音響システムを成立させるために、なくてはならないものです。
MONSTER POWER 8000 / 8001も、そんなMONSTERの考え方から生まれた電源製品です。
そこで、ひとつ考えてみたいことがあります。
「電源タップを変えると、音は変わるのか?」
電源タップを変えたらノイズが減った。
低域が締まった。
音の解像度が上がった。
オーディオの世界では、昔からさまざまなことが言われてきました。
一方で、
「コンセントから来ているAC100Vは同じなのだから、電源タップなんてどれも同じじゃないの?」
という疑問もあります。
この記事では、最初から「音が良くなる」という結論を出すのではなく、MONSTER POWER 8000 / 8001を題材に、電源とオーディオの関係を少しずつ見ていきます。
まずは、その大元となる電源についてです。
コンセントから来ている電気は、本当にいつも同じなのでしょうか。
2. コンセントから来る電気は、本当にきれい?

日本のコンセントから供給されているのは、AC100V、50Hzまたは60Hzの交流電源です。
東日本では主に50Hz、西日本では主に60Hz。
理想的には、きれいな正弦波がコンセントまで届いていることになります。
でも、実際の電源環境はもう少し複雑です。
■ 電源ラインは「専用道路」ではない
建物の電源を道路に例えてみましょう。
自分のオーディオ機器だけが走る専用道路ではなく、さまざまな機器が同じ道路を使っています。
そして、それぞれの機器が動作することで生じた高周波成分などが、電源ラインへ回り込むことがあります。
そこで登場するのが、
- EMI(Electromagnetic Interference)
- RFI(Radio Frequency Interference)
と呼ばれるものです。
さらにノイズには、電源線などを伝ってくる伝導ノイズと、電磁波として空間から飛び込んでくる放射ノイズがあります。

MONSTER POWERのEMI/RFIフィルタリングで重要になるのは、主に前者。
つまり、電源ラインという「道路」を通って入ってくる不要成分です。
では、それが機器に入ったら、そのまま音になってしまうのでしょうか。
3. AC100Vは、そのまま音に使われているわけではない

ここには、ひとつ大きな誤解があります。
コンセントから来たAC100Vが、そのままオーディオ回路を動かしているわけではありません。
多くの機器では、内部の電源回路を通して、回路が必要とする電圧へ変換してから使います。
大まかに言えば、
AC100V → 電源回路 → 必要なDC電源 → オーディオ回路
です。
■ 電源回路は「関所」のようなもの
外から来た電源が、そのまま素通りして音響回路へ入るわけではありません。
途中に電源回路という「関所」があります。
ここで整流、平滑、電圧の調整などが行われます。
さらに回路自体にも、電源側の変動やノイズの影響を受けにくくする能力があります。
その指標のひとつが、
PSRR(Power Supply Rejection Ratio)
です。
簡単に言えば、電源側にある余計な変動を、どれだけ回路の出力へ出さないかを見る指標です。
ここで大事なのは、
「電源にノイズがある」=「そのまま音にノイズが出る」ではない
ということ。
関所をどれだけ通り抜けてしまうのかは、機器の設計やノイズの周波数などによって変わります。
だから、同じ電源環境でも機器によって影響が違う可能性があります。
では、その「関所」に到着する前に、余計なものを減らすことはできないのでしょうか。
4. 電源フィルターは何をしている?
そこで登場するのが、MONSTER POWER 8000 / 8001にも搭載されているEMI/RFIフィルタリングです。
考え方はシンプルです。
必要な50Hz/60Hzの電力は通す。不要な高周波成分は減らす。
イメージするなら、ふるいです。

必要なものは通して、不要なものは通りにくくする。
一般的なEMIフィルターでは、インダクター(L)やコンデンサー(C)など、周波数によって電気的な性質が変わる部品を利用します。
さらに少し深く見ると、電源ライン上のノイズには、
ディファレンシャルモードノイズ
と、
コモンモードノイズ
があります。
前者は主にLとNの間に現れるノイズ。
後者はLとNに対して同じ方向に現れるノイズです。
流れ方が違うので、対処の方法も違います。
一般的なEMIフィルターでは、こうしたノイズに対してコンデンサーやコモンモードチョークなどを組み合わせます。
ただし、フィルターは魔法の壁ではありません。
ノイズをゼロにするのではなく、特定の周波数成分を減衰させるもの。
これが電源フィルターの基本です。
なお、ここで説明しているのは一般的なEMIフィルターの原理であり、MONSTER POWER 8000 / 8001の非公開の内部回路を示すものではありません。
そして、電源についてもうひとつ知っておきたいのが、「アース」の役割です。
MONSTER POWER 8000 / 8001は、3ピン仕様。
一般的な2ピンにはない、3本目の端子にはどんな意味があるのでしょうか。
5. 3ピンの「3本目」は何をしている?

一般的な3ピンAC電源には、
- L(Line)
- N(Neutral)
そして、
- PE(Protective Earth)
があります。
この3本目のPEは、保護接地です。
■ 3本目は「非常口」
PEを建物の非常口のようなものだと考えると分かりやすいかもしれません。
普段は意識することがありません。
しかし、機器内部の故障などによって本来電圧がかかるべきではない金属部分に電圧がかかったとき、故障電流を保護接地側へ流し、感電などの危険を低減するための経路として機能します。
つまり、
3本目の第一目的は「音」ではなく「安全」です。

一方、オーディオでは「GND」という言葉もよく出てきます。
ここは少し注意が必要です。
PE(保護接地)、シャーシGND、信号GNDは、それぞれ目的が違います。
そして複数の機器を電源だけでなくXLR、TRS、USBなどでも接続すると、グラウンドの経路が複数できることがあります。
これがグラウンドループにつながり、条件によっては「ブーン」というハムの原因になることがあります。
だからといって、
ハムが出るから3ピンのアースを外す
という考え方は適切ではありません。
非常口を塞いで問題を解決するようなものだからです。
ノイズ対策と安全対策は、分けて考える必要があります。
では、電源にはノイズ以外にどんな危険があるのでしょうか。
6. 1350J/1960Jって何?

MONSTER POWER 8000には1350J、POWER 8001には1960Jというサージ保護性能が記載されています。
JはJoule(ジュール)。
エネルギーの単位です。
■ サージは「突然押し寄せる大波」
普段の電源を穏やかな波だとすると、サージは突然押し寄せる大きな波のようなものです。
落雷に伴う誘導サージや、電源系統のスイッチングなどによって、瞬間的な過電圧が発生することがあります。
その大波を接続機器へそのまま到達させないために、サージ保護回路があります。
代表的な部品のひとつが、
MOV(Metal Oxide Varistor/金属酸化物バリスタ)
です。
MOVは通常時には高い抵抗を持ち、一定以上の電圧が加わると急激に電流を流し、過電圧を抑える方向に働きます。
いわば、
大波が来たときに働く「逃げ道」です。
MONSTER POWERではFireproof MOV®を採用しています。
そして、
- POWER 8000:1350J
- POWER 8001:1960J
という数字は、サージ保護回路が扱えるエネルギー量を見るための指標のひとつです。
ただし、ジュール値だけでサージ保護性能のすべてが決まるわけではありません。
また、MOVは大きなサージを受けることでストレスを受け、徐々に劣化します。
ここで整理すると、
EMI/RFIフィルターは、普段の電源ラインにある不要成分を減らすもの。
サージ保護は、突然やってくる異常な電圧から機器を守るもの。
似ているようで、役割はまったく違います。

7. MONSTERが考える「Clean Power®」とは?
POWER 8001に搭載されているMonster Clean Power®。
第4章で見たように、一般的なEMI/RFIフィルターの基本は、電源ラインを伝わる不要な高周波成分を減衰させることです。
では、MONSTERが提唱する「Clean Power®」は何が違うのでしょうか。
そのヒントは、過去のMONSTER POWER製品にあります。
■ ノイズは「外から入ってくる」だけではない
同じ電源系統に、
デジタル機器 ─ アナログ機器 ─ パワーアンプ
など、複数の機器が接続されているとします。
機器は電源を使うだけではありません。
スイッチング電源やデジタル回路などの動作によって生じた高周波成分が、電源ライン側へ回り込むことがあります。
つまり、
電源ライン → 機器
という外から入ってくる経路だけでなく、
機器A → 電源ライン → 機器B
という経路も考えられます。
「ノイズが逆流する」ようにも見えますが、より正確には、機器自身が発生したノイズが電源ラインへ回り込み、同じ電源系統を通じてほかの機器へ伝わるということです。
MONSTERは、こうした異なるノイズの伝わり方に着目してきました。
■ Noise FiltrationとNoise Isolation
過去のMONSTER POWER製品では、Clean Power®の役割を大きく、
- Noise Filtration
- Noise Isolation
という2つの考え方で説明していました。
Noise Filtrationは、電源ラインを伝わって入ってくる不要なノイズをフィルターによって減衰させるもの。
つまり、
外から入ってくるノイズを減らす。
という考え方です。
一方のNoise Isolationは、接続した機器自身が発生させたノイズが電源ラインを通じて、ほかの接続機器へ干渉することを抑えるという考え方です。
イメージするなら、
機器と機器の間に「ノイズの仕切り」をつくる。
ということです。
■「アイソレート電源」とは違う
ここは少し注意が必要です。
ギター用パワーサプライなどでいう「アイソレート出力」は、一般的に各出力を電気的に絶縁するガルバニック・アイソレーションを意味します。
MONSTERがClean Powerで説明してきたNoise Isolationは、それとは異なります。
各出力を電気的に完全に切り離すという意味ではなく、フィルターなどによって接続機器間のノイズ干渉を抑えるという考え方です。
つまり、
「電気の壁」ではなく「ノイズの仕切り」。
と考えると分かりやすいでしょう。
■ Clean Power Stage 1〜5
さらに過去のMONSTER POWER製品では、Clean Power Stage 1〜5が展開されていました。
Stageが上がるにつれて、より高度なフィルタリングと、接続機器間のノイズ干渉を抑える設計が採用されていました。
一部の上位PowerCenterでは、
- Analog Audio
- Digital
- High Current Audio
など、接続する機器に応じて複数のフィルター系統を設けた製品も存在しました。
つまり過去のMONSTER POWER製品では、Clean Power®を単に「電源ラインにフィルターを入れる」だけのものではなく、
① 電源ラインから機器へ入ってくるノイズを減らす
そして製品によっては、
② 機器自身が発生し、電源ラインを通じてほかの機器へ伝わるノイズ干渉も抑える
という考え方へ発展させていたことが分かります。
■ EMI/RFIフィルターとClean Power®の違い
ここまでを整理すると、違いが見えてきます。
EMI/RFIフィルタリングは、電源ラインの不要な高周波ノイズを減衰させるための一般的な技術です。
一方、過去のMONSTER POWER製品を見ると、Clean Power®ではNoise Filtrationだけでなく、Noise Isolationや複数のフィルター系統まで含めた電源ノイズ対策が展開されてきました。
つまりClean Power®は、単に別の種類のEMI/RFIフィルターというより、
電源ラインと接続機器をひとつのシステムとして捉え、ノイズをどうコントロールするかという、MONSTERの電源設計の考え方まで含んだもの
と捉えると分かりやすいでしょう。
■ そして、POWER 8001へ
そのMonster Clean Power®を現在搭載しているのが、POWER 8001です。
POWER 8001では、Monster Clean Power®によってEMI/RFIノイズをフィルタリングします。
ただし、ここは過去の製品と区別しておく必要があります。
過去の上位PowerCenterに採用されていたClean Power StageやNoise Isolationの仕組みが、そのままPOWER 8001にも搭載されているという意味ではありません。
POWER 8001について公開されている仕様では、Monster Clean Power®によるEMI/RFIフィルタリングが搭載されています。

8. POWER 8000と8001、どちらを選ぶ?
ここまで分かれば、最後は実際の使い方です。
POWER 8000と8001は、単純に「安いモデル/高いモデル」で選ぶものではありません。
見るべきなのは、自分のシステムに何が必要なのかです。
POWER 8000![]() | POWER 8001![]() | |
| ACコンセント | 7口 | 8口 |
| USB | ― | USB-A ×2 |
| USB出力 | ― | 5V / 2.1A対応 |
| サージ保護 | 1350J | 1960J |
| ケーブル長 | 約1.2m | 約4.5m |
| サイズ | 約313 × 60 × 35mm | 約311 × 85 × 35mm |
| 重量 | 約600g | 約1,100g |
| EMI/RFIフィルタリング | ○ | ○ |
| 3ピン | ○ | ○ |
| Monster Clean Power® | ― | ○ |
POWER 8000
7口、ケーブル長約1.2m。
デスク周辺や機材の近くなど、比較的コンパクトに電源をまとめたい環境に向いています。
サージ保護は1350J。
シンプルに電源をまとめながら、接続機器を保護したい場合はこちらです。
POWER 8001
8口に加えてUSB-Aを2ポート搭載。
さらに大きな違いが、約4.5mの電源ケーブルです。
ステージ、リハーサルスタジオ、PAなど、壁のコンセントと機材の距離がある環境では、この長さが大きなメリットになります。
サージ保護は1960J。
そして8001には、前章で紹介したMonster Clean Power®が搭載されています。
ただし、
「8001の方が音が良い」
という意味ではありません。
必要なコンセント数、電源までの距離、USB給電、サージ保護、そして電源ノイズへの対策。
自分のシステムに必要なものから選ぶのが基本です。
9. 結局、電源タップで音は変わるのか?
最初の問いに戻りましょう。
「電源タップで音は変わるのか?」
答えは、
変化する可能性はある。しかし、交換すれば必ず音が良くなるわけではない。
です。
ここまで見てきたように、電源ラインにノイズがあったとしても、それがそのまま音になるわけではありません。
機器側にも、それを抑える仕組みがあります。
だから、もともと問題のないシステムなら、電源タップを交換しても聴感上ほとんど変化しないこともあるでしょう。
逆に、電源に起因する問題が実際に存在していたなら、それを減らすことで結果として変化が現れる可能性があります。
つまり、
電源タップが新しい「音」を作るのではなく、音響システムが安定して動作するための電源環境を整える。
そう考えると分かりやすいのではないでしょうか。
MONSTERの言葉に戻れば、
“Not Accessories, Necessaries.”
ケーブルも、電源も、主役ではないかもしれません。
でも、なければ何も始まらない。
MONSTER POWER 8000 / 8001は、音を作る機材ではありません。 でも、その音を支える電源もまた、音響システムにとっての「必要なもの」のひとつなのです。

